第44回全日本学童マクドナルド・トーナメント茨城大会の決勝は、茎崎ファイターズが水戸レイズを9対1の5回コールドで破り、2年連続11回目の全国出場を決めた。茎崎はエースがあわや完封の快投、四番が先制3ランを含む3打数3安打と、中軸が機能。敗れたレイズも5回に3安打で1点と意地を見せ、全国スポ少交流へつながる関東大会へ弾みをつけた。
(写真&文=大久保克哉)
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優勝=2年連続11回目
茎崎ファイターズ(つくば市)
準優勝=スポ少関東大会へ
水戸レイズ(水戸市)
■決勝
◇6月16日
◇ノーブルホームスタジアム水戸
水戸レイズ
00001=1
3042X=9
茎崎ファイターズ
※5回コールド
【水】宮内、小島-市毛
【茎】佐藤映、折原-藤城
本塁打/川崎(茎)
全国を経験している強豪同士。応援も熱かったが、互いにマナーとリスペクトも感じられた
どちらのチームも全国区。双方の応援席は多くの人の姿が見られ、スタジアム全体に活気があった。茨城予選での直近の顔合わせは2年前、2022年の準決勝だ。これを9対5でものにした水戸レイズ(以降、レイズ)は、続く決勝も制して6年ぶり2回目の優勝。ロングヒッターが居並ぶ打線の猛威は、8月の全国大会にも及んで14対0、7対0と圧勝を続けて過去最高の3回戦まで進んでいる。
今年も上位打線はバットが振れている印象だった。しかし、髙木政彦監督は試合後にこう打ち明けた。
「2年前の打線に比べたら、力は半分もないんじゃないかな。スイング力も、芯で捉える能力も。去年の秋の新人戦は地区予選で負け。それも1回戦負けですよ」
レイズは登録25人。6年生が11人で4年生が2人
一方の茎崎は2019年に全国準V。登録22人の5・6年生の中には、昨年の全国大会でもプレーした選手が複数いる。左腕の佐藤映斗と藤城匠翔主将のバッテリーは、1年前の県決勝もスタメン出場。5年生の石塚匠も前年度から不動のリードオフマンだ。また前日の準決勝では、1年前の決勝を戦った上辺見ファイターズを、7対0の5回コールドで下していた。
分水嶺の7球勝負
メンバーの実績と経験値に差があるは明らか。だが、野球は強いものが勝つとは限らない。現にこのファイナルは、分が良いはずの茎崎のミスから始まった。
先攻のレイズは1回、いきなりの敵失と内野ゴロで一死三塁の好機を得る。ここで三番の小島颯太と、マウンドの茎崎のエース左腕とが、真っ向勝負を展開。終わってみれば、ここがこの試合最大の見どころであり、「分水嶺」でもあったのかもしれない。
1回表、一死三塁で真っ向勝負した茎崎・佐藤映(上)とレイズ・小島(下)
右打席の小島は1球ごとにベンチを見たが、バントの構えなど陽動作戦の気配もなし。三走も最後の1球を除けば、小賢しい動きは見られず。また茎崎バッテリーも、ボール球で出方をうかがうような配球ではなかった。
初球、4球目、6球目と小島はストライク球をすべてフルスイング。いずれもファウルで、タイミングは狂ってはいない。マウンドの佐藤映は83㎞から96㎞の幅で投げ分けるが、際どいボール球も見極められてフルカウントに。しかし、6球目のファウルに続く7球目は、動作のテンポもやや緩めた中速球で、空振り三振を奪ってみせた。
その熱い7球の勝負から、明暗がくっきりと分かれていった。続く打者を内野ゴロに仕留め、無失点で立ち上がった茎崎のエースは以降、4回まで散発2安打の快投を演じていくことに。
対するレイズの先発女子、宮内心梅は初回からつかまった。大会4試合目の先発とあって落ち着いており、右腕の振りにも躊躇や遠慮は見られなかったが…。
「今日も自分のピッチングをしようと思いましたけど、結構打たれてしまいました」(宮内)
レイズの先発・宮内(上)は女子チームでの活動はしていないという。スタメンで七番・DHの渡邉昊輝は、一本足打法から2回にチーム初安打(下)
茎崎は1回裏、中軸の打棒がさく裂した。四球と内野安打の走者を置いて、四番・川崎愛斗がレフトへサク越えの先制3ラン。
「打ったのはインコースの高めでした。これは行った(サク越え)だろう、という感じでしたね」(川崎)
茎崎は二番・折原が初球で二盗を2つ(上)。四番・川崎は先制3ラン(中央)を含む3安打4打点。5年生の六番・佐々木は2回にタイムリー二塁打(下)
茎崎は3回にも、二番・折原颯太と三番・藤城が渋いヒットで塁に出ると、川崎の左前打で4対0に。この回はさらに、六番・藤田陽翔と七番・佐々木瑠星(5年)の連続タイムリーで、7対0と大きく突き放した。
「色気」と「意地」の錯綜
レイズは4回表、先頭の小島が左前打から二盗を決めるも、後続が続かず。
4回裏、茎崎は先頭の石塚が右前打(上)。藤城主将(中央)と藤田(下)のタイムリーで9対0に
直後の4回裏、一番から始まった攻撃で5本のヒットを重ね、9対0とした茎崎は以降、控えにいた6年生が次々とフィールドに登場してきた。
「6年生10人のうち4人が、県大会でまだ試合に出られてなかったんですよ。裏方でもがんばってくれる子たちなので、何とか同じ土俵に上げてやりたくて。結果として4回コールド(10点差)で終わらずに、みんなを出してあげられたのは良かったです」(吉田祐司監督)
代打の西山光が二飛に倒れて迎えた5回の守りは、一塁に牧内志生、二塁に渡部力斗、右翼に下村芽吹がそれぞれ入った。
9対0とした茎崎は、西山が代打で大会初出場(上)。5回の守りは新たに3人が入り(中央)、ベンチの吉田監督は「落ち着いていけ!」(下)
5回表を終えて8点差以上のままなら、コールドとなる。明らかに色気の見えた敵軍に対して、レイズ打線は意地を見せた。
八番の代打・工藤耀汰(5年)と、一番・森一眞のテキサス安打で二死一、二塁とすると、二番・久保田大智が中前へクリーンヒットを放って1点が入る。
「あんな展開(コールド負け寸前)でしたけど、絶対に負けたくないという思いも強かったので、絶対にここはランナーをかえそうと思いました。地区1回戦からここ(県準V)まで来られたことは、自信になりました」(久保田)
5回表、レイズは代打でテキサス安打の工藤が、一塁コーチの小野瀬魁来と交代(上)。森もヒットで続いて(中央)、久保田が中前タイムリー(下)
さらに三番・小島が四球を選んだところで、茎崎のエースは既定の70球オーバーで左翼の守備へ。入れ替わってマウンドに立った右サイドの折原は「いつも心の準備をしていますし、魂を込めたボールを投げることを意識しました」と、1球目からエンジン全開だ。
レイズの四番・萩谷叶真に3球ファウルで粘られたものの、最後は途中出場の一塁・牧内がゴロをグラブに収めての触塁で3アウトに。5回8点差のコールドゲームがここに成立した。
〇茎崎ファイターズ・吉田祐司監督「打撃も守備も上り調子で入った県大会でも、そのままの勢いで勝ち切ることができました。先発の佐藤映がよく投げましたし、四番の川崎が今日に限らず、この大会はホントによく打ってくれて、成長したと思います」(※全国展望チーム紹介「茎崎ファイターズ」は近日中に公開)
●水戸レイズ・髙木政彦監督「正直、満足してるんですよ。ここまで来られるようなチームじゃなかった、弱かったので。新人戦は地区予選1回戦負けですからね。無欲の勝利ですよ。あとは子どもたちが努力した結果。この大会は調子が良ければ勝てるとは思っていたけど、今の茎崎にはなかなか歯が立ちませんでしたね」
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準決から連発!ついに“男を上げた”不動の四番
かわさき・まなと川崎愛斗
[茎崎6年/一塁手]
ジェンダーレスのこの時代、あまり好ましくない表現なのは承知している。それでもあえて、使いたい。
新チームから不動の四番・川崎愛斗は、この大会でついに“男”となり、そして“男”を上げた。
5試合で3本塁打。それも、大詰めの準決勝と決勝でサク越えアーチを1本ずつ。決勝は1回の先制3ラン(=下写真)に始まり、3回に中押しの左前タイムリー、そして4回は鮮やかにセンター前ヒットと、3打数3安打4打点をマーク。全国準Vの実績もある“関東の雄”の四番という大役を、見事に果たしてみせた。
「川崎は飛ばす力は断トツ。期待もしてるんですけど、まだまだですね」
4月の東日本交流大会(優勝)までは、指揮官の評価はいつも渋いものだったが、さすがに今回は違った。
「もう合格です! この1年、彼には『お前が四番なんだよ!』とずっと言ってきて、プレッシャーも相当にあったと思います。決して器用な子じゃないし。でもそいうのも跳ね除けて、この県大会は大事なところでホントによく打ってくれました」(吉田祐司監督)
自信の表れだろう、一塁守備は元より安定しているが、仲間を鼓舞したり、落ち着かせるような動きも見られるようになった。また試合中に限らず、集団に行動のメリハリを促すような声掛けも。
3回の第2打席は無死一、三塁からレフトへタイムリー
打席では、持てるパンチ力を余さずに発揮できるようになっている。相手投手を観察して状況を読み、前の打席や前の打者の内容も踏まえ、狙い球やコースを絞れている。そういうスイングも目に見えて増えてきた。
でも本人は、「開眼」の一番の要因は己の殻を守り抜いたことだと語った。
「プレッシャーは今もキツいです。でも自分自身のことだから、監督に何を言われようが『ここぞ!』という感じで試合に臨んできました。この大会は自分も出たかったので、楽しく全力でプレーしようと。全国大会も同じように…」
難局を乗り越えた“男”だが、言葉はうまいこと出てこない。最後のくだり、きっとこんなことが言いたかったのだろう。
「自分を見失わずにプレーして、チームの勝利に貢献したいです」
もし違っていたら、後から修正します。
締めは4回、中前へきれいに弾き返して3打数3安打に
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秋の屈辱から巻き返し。声と全力で引っ張ったキャプテン
とのおか・たける外岡 健
[レイズ6年/三塁手]
「自分は背も小さくて、人よりもパワーを出せないので、声でチームを引っ張っていこうと、がんばりました」
泥だらけのユニフォームに、首から銀メダルを下げた背番号10は、これまでの自分をそのように振り返った。地区予選で初戦敗退した、新人戦からの道のりは平坦ではなかったことだろう。
打順は九番で、決勝は2打席でヒットなし。だが、5回にようやく巡ってきた第2打席で、相手野手のファインプレーに阻まれたものの、あわや長打コースという打球を左翼線へ放った(=下写真)。
「こういう展開(ワンサイド)でも、最後まで諦めずにできました」
三塁守備では、打球に向かっていく姿勢が顕著に見て取れた。三塁線ギリギリのセーフティバントに対する出足も鋭い。ファウルの小飛球には体ごと飛び込んでいった。
試合の流れを変えるようなビッグプレーはなかったものの、4つのゴロをすべてアウトに。胸に当てて落としたボールを、すぐさま拾っての送球には、積み重ねただろう練習の跡もうかがえた。
「やっぱり勝ちたかったし、全国に行きたかったです。この悔しさを胸に、絶対に関東(スポ少大会)で勝って、全国に行きます!」
外岡健主将のこの宣言通り、チームは7月半ばの関東大会で2連勝。2試合目は雨天中止による抽選だったが、全日本学童と並ぶ夏のメジャー全国大会、全国スポーツ少年団軟式野球交流大会(8月1日から鳥取県開催)初出場を決めている。